■2007年4月28日 (土)
FUKUGAN GALLERYにて
・吉村光弘 ソロ
・吉村光弘 七番勝負
(東岳志、小田寛一郎、 川口貴大、鈴木勝、西川文章、大和川レコード、米子匡司)



吉村さんのソロは5分くらいのものを3セット。
ヘッドフォンを手に持ったり床に置いたりしていたように思うが
なぜか天井とか壁を見てしまうので吉村さんの手元は見そびれた。
3セットそれぞれ増幅する周波数の帯域が違っていたと思う。
いままで音の「観察」的な側面を見ていたのだが
どちらかというとれっきとした「演奏」であった。
「ヘッドフォン・スピーカー自体を(半)操作することによって、
音に干渉し、音を観察し、そしてまた音を無視する。」
音に干渉「してしまう」のではなく
音に干渉「する」という選択はどういうことなのだろうか。



続く七番勝負の順番は直前にくじで決定。
1ー小田寛一郎
2−大和川レコード
3−米子匡司
4−東岳
5−川口貴大
6−鈴木勝
7−西川文章
みんな覚悟を持ってやっている人ばかりなので
それぞれの志向、問題意識の違いがはっきり出ていた。
もちろん吉村さんの演奏の「共演者を映す鏡」のような
特徴もあってのことだと思う。
時々吉村さんの演奏がまったく意識にのぼらないことがあって
完全に背景になるというか、図になっていて
音に変化はあるが切断はないとか、
何人かはあえて吉村さんの演奏を知らずに演奏に臨んだりとか、
そうなる要素はいろいろとあるとは思うがとても興味深かった。



1−小田寛一郎
コンピュータのフィードバック。
ibookはキーボード面にスピーカー、ディスプレイ面にマイクがあって
ディスプレイの開閉でフィードバックの調整をするのだが
開閉のために手で触れる時に出てしまう音が自分でもちょっと気になったので
会場にいたみなさんも気になったかもしれない。
外に持っていって野外録音する時は一切触らないのだが
今回は演奏会であるので演奏というつもりでいろいろと動いてみた。



2−大和川レコード
アコースティックギター一本。
吉村さんの真ん前に座って演奏開始。
なんとなく歌いだす雰囲気でなかったので
歌わないのかなと思っていたら急に歌いだしてびっくりした。



3−米子匡司
ペットボトルからポタポタと落ちる水音を拾う筒のようなものと
その音に音階をつける変調のためのコンピュータ、おもちゃの鍵盤。
コンピュータも人によっていろんな使い方がある。
何かをシミュレートするのではなく
何かをダイレクトに取り込もうとしている。



4−東岳
小学校の校舎にくっついているスピーカーの内部だけとったような(?)ものと
自作のスピーカーと、導線になにやらハンダのようなものがついたものを
近づけて音を出していたが、細かいことは聞き忘れた。
最初のあたり、けむりが出ていた。



5ー川口貴大
時間が来た時のジリリという音を出なくして
時間を刻むカチカチという音だけ出るように改造した
キッチンタイマーを10個並べる。
10分後に一斉にピタッと音が止まるならすごいことだ
と思いながら聴いていたがさすがにそうはならなかった。



6−鈴木勝
バンジョーと小道具いろいろ。
鈴木さんはいつも音を出すタイミングがさっぱりしていて小気味良く
それがかえってとても不思議な感じ。
吉村さんのマイクに近づいていって音を変化させようと
棒を振る姿はこの日のハイライトのひとつ。



7−西川文章
肩からななめがけできるアンプにギターを繋いで
ドラムイスに座ってぐるぐる回りながら演奏。
ハーモニクスとスイッチングと弓引きと少しづつやっていた。
どちらか片方だけに回っていると
ドラムイスの高さがどんどん上がっていくので時々逆方向にも回る。
たまにピタッと止まる事があってそれが妙な間を生んでいた。



ここまでいろいろと思い出してきて
七番勝負の時の吉村さんの演奏を何も覚えていないことに気が付く。
辛うじて覚えているのは大和川レコードとの演奏の感じだが
人間が受け取る刺激として、共演者の方々のものとは位相が違うからだろうか。
いろんな変化があるといってもある特定の幅の中でのことで
たぶんそれが表現としてのコントロールと呼ばれるものであり
機材、方法論その他の選択によるものなのだが、
その幅に重ならないものには沈黙してしまうようなところが、
良い悪いではなく吉村さんのやっていること全体の性格として
あるような気がして、そういういろいろを面白く思う。

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■2007年4月29日 (日)
FUKUGAN GALLERYにて
・吉村光弘 ソロ
・磯端伸一、川口貴大 デュオ
・Tim Olive、小田寛一郎 デュオ
・江崎將史、吉村光弘 デュオ



・吉村光弘 ソロ
短めのセットだったが具体的にどういう風だったかはさっぱり覚えていない。
覚えていないからといってどうってことは無いし
細かい変化の過程が覚えられるような音楽ではないけれど
覚えられたらすごいとも思う。
人間は、ある変化の幅を持った音が混在している環境には慣れているが
ある単一の音の変化の幅の中でそれぞれの瞬間を個別に聴くことには
あまり慣れていないのかもしれない、とふと思った。
それぞれの瞬間の変化の連続は全体としての印象にその都度回収されていく。
あとは28日の分にも書いたが、あくまで「音楽」の「演奏」であることが
とても強く強調されているように思った。
強調するためのそういう仕掛け、というと大袈裟だが、
そういう仕草そのものをどう捉えるか、ということも
人によっていろいろあるだろう。
ある意図を持って音に干渉「する」ことは言うに及ばず
干渉「してしまう」ことでさえ、それだけですでに演奏だと思うが
実際の音を伴うパフォーマンスとしては、
干渉「してしまう」ことはあまりに曖昧で不安定である。
私は「してしまう」方になにかしら可能性を感じてしまうのだが
吉村さんはその曖昧さを排して、
「演奏」という行為を音楽的に純化していったのだと思う。
もしくは行為を「演奏」という音楽的なものとして純化していった、
または「演奏」を音楽に至る行為として純化していった、のかもしれない。



・磯端伸一、川口貴大 デュオ
川口君はキッチンタイマーをひたすら床に置き
磯端さんはその音に無関係に、か、無関係のように、か、は
分からないが淡々とギターの演奏をする。
前半は、川口君の作った環境の中での磯端さんのギターソロという趣き。
後半は、川口君がキッチンタイマーのひとつを手で振って音を出し始め
川口君の作った環境の中での川口君と磯端さんのデュオになる。
吉村さんの音が共演者によってか何によってかは分からないが
しばしば「図」として聴こえてくるのとは違う感じで
川口君の音も「図」として聴こえてくる。
川口君のキッチンタイマーはそもそも「図」だからだろうか。
「図」の音に「地」の音で絡んでいく難しさを感じた。



・Tim Olive、小田寛一郎 デュオ
Timさんはいつものようにテーブルトップギターと小道具でゴリゴリした音を出し、
私はふたつのテープレコーダーとふたつの10分テープで
Timさんの音を含む部屋のもろもろを録音、再生+録音、再生+録音、再生+録音。
録音、再生+録音、、、の行為がTimさんを突き放したようになるかと思っていたが
いまのTimさんとちょっと前のTimさんのデュオになっていた。
テープレコーダーの音量を最大にしていたのでかなりうるさい音楽になった。
録音、再生+録音、、、の行為を音楽の「演奏」として改めて位置づけるなら
こういう方向になっていくのではなかろうか。



・江崎將史、吉村光弘 デュオ
事前に話し合いとリハーサルをしたようで
ふたりの人間が一緒に演奏している感じが強く出ていた。
江崎さんはあらかじめ作られた
音のパターン(音の長さ、次の音へのインターバルの長さなど)を
時間に沿って演奏し、吉村さんもそれに合わせていた(ようにも見えた)。
吉村さんの音楽を「図」ではなく「地」として扱い、繊細な変化を際立たせて
なおかつただの引き立て役にはならない江崎さんもすごいが
どちらかがすごいというより、ふたりのバランスがうまくとれていたのだろう。